~ ひらがなで統一すれば、もう表記の揺れに悩まない ~
No.006|A.コピー基礎|A-002
「表記の揺れ」とは
コピーライティングや編集といった分野では、文字が不統一になってしまっていることを、「表記が揺(ゆ)れる」という言い方をします。
コーポレートサイト、パンフレット、販促物、出稿物、LP(ランディングページ)、バナー、メルマガ、SNSなど、多くの企業がさまざまなメディアの運用や出稿をする昨今、一般企業でも、表記の揺れは日常的に発生する悩ましい課題のひとつとなり、いつの間にか字引にも記載されるほど、世間でも広く認知されています。
表記揺れ(ひょうきゆれ)
用字用語の不統一。同じ文書や書籍の中で、本来、同音・同義で使われるべき語句が異なって表記されること。「メモリー」と「メモリ」、「引っ越し」と「引越」など。表記の揺れ。
デジタル大辞泉(小学館)
ちなみに、字引では「表記揺れ」として、このように解説されています。
表記の揺れを防ぐ対策
表記の揺れを防ぐ対策としては、以前にも小欄で触れたとおり、「表記表」「表記ルール」などと呼ばれるガイドラインを整備するのが一般的です。
あるいは、『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』(一般社団法人共同通信社)、『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞社用語幹事)といった表記のハンドブックに頼るのも代表的な対策のひとつでしょう。
とはいえ、表記のガイドラインを整備するのは容易ではなく、かといって表記のハンドブックに頼るにしても、一見便利そうですが、ハンドブックを片手にコピーライティングや文章を書くのは意外に面倒で、チームや複数スタッフとの運用も、かなりの労力を強いられます。
「表記のハンドブックを使う運用をはじめたけど、結局は独自に表記ルールを整備していった」
みたいなことは、編集部ではよくある話です。
揺れる表記の傾向
そのため、実際の現場では、手軽な置換ソフトや校正ツール、あるいはネットで検索するなどして済ませられ、表記表の整備までにはいたらないケースがほとんどではないでしょうか。
そんな事情もあって、かくいう当方も、表記の揺れについては聞かれたり、目にしたり、気づいてしまったりすることが、職業柄(病)なのでしょう、少なくありません。
実のところ吐露すると、星の数ほど表記の揺れに接してきたなかで、コピーライターや編集者にとっては当たり前でも、一般的にはそうではないため、どうしても揺れてしまう表記があり、そこには「ある傾向」があることに気づきながら、ずっとモヤモヤしていました。
「ひらく」と「とじる」
もったいぶるようで恐縮ですが、「ある傾向」に触れる前に、揺れる表記といっても、下記のように、
送り仮名
カタカナ
数字
英文
全半角
記号(約物・符丁)
句読点
その種類はさまざまです。そんな揺れる表記のなかでも、最も揺れやすいのが「ひらがな」「漢字」の表記です。実際に聞かれたり、気づいたりする表記の揺れの大半が、これにあたります。
コピーライティングや編集の分野では、
「ひらく」 … ひらがなで表記すること
「とじる」 … 漢字で表記すること
という言い方をします。実は、字引でも、
開く:原稿の、文章中の漢字をかなに書きなおす。
閉じる:原稿の、文章中のかなを漢字に書きなおす。
デジタル大辞泉(小学館)
と解説されています。ちなみに現場では、
「この文言って、ひらくんだっけ? とじるんだっけ?」
みたいなやりとりがされますが、編集やメディアの業界ではない、一般企業の方々との打ち合わせでも通じるほどに、この「ひらく」「とじる」は、意外と認知されています。
揺れる表記はひらがな表記で解決
一般企業でも「ひらく」「とじる」が認知される理由として、表記の揺れが日常的な問題として発生していることに加え、その問題のほとんどが「ひらがなか、漢字か」のパターンだからでしょう。
実際に、当方が表記の揺れについて聞かれたり、気づいてしまったりするのも、「ひらがなか、漢字か」問題が大半で、しかもほとんどが「ひらがな」で表記することで解決できるものばかりなのです。
表記の揺れにおける「ある傾向」とはつまり、「ひらがなか、漢字か」問題であって、さらにこの問題は「ひらがなで表記する漢字を覚える」ことで、実はその多くが解決できてしまうのです。
この解決策を整理・共有することこそが、ずっと抱えてきたモヤモヤの元凶でして、この度、コピーライター、そして元編集者としての責務というと大仰ですが、これを整理・共有するに至った次第です。
「ひらがなで書く漢字50選」を無料公開
前置きが長くて恐縮です。本丸です。
つきましては、「ひらがなで書く方がスマートな漢字」50語を厳選してまとめた一覧表を、ここに公開します。
選定基準としては、商業コピーライティング、広告、販促、ビジネスシーンはもちろん、個人的なメールやSNS投稿などでも頻繁に使うであろう、ひらがなか漢字かで悩みがちな文言を厳選してみました。
一覧表のそれぞれの右列に転記した解説の抜粋とともに、後段の解説ともあわせて参考ください。
あ、小欄の趣意で宣言したとおり、もちろん無料です。
※テキストがコピーできるよう、画像ではなくHTML形式のテーブルタグで表示しています。自作のためレスポンシブ対応まで手がまわらず、スマホなどでは表示がビミョーなので、PC版でご覧ください。
解説:ひらがな表記の6つのパターン
ひらがな表記にするときのパターンは、だいたい下記のように6つ程度に分類できます。
1.通例
2.副詞
3.形式名詞
4.補助動詞/補助形容詞
5.複合動詞
6.その他
分類の都合上、品詞でグルーピングしたため、ちょっとコムズカシク感じられるかもですが、できるかぎりカンタンに解説してみたので、よければ少々お付き合いください。
1.通例(16語)
「有難う御座います」「有る/在る」「畏まりました」「殆ど」「又」
「色々」「下さい」「様々」「揃う」「~達」「掴む」「~出来る」「~供」「無い」「~風」「様な」
漢字は一般的ではない(「有難う御座います」など前者)、または、ひらく編集者が多い表記(「色々」など後者)。いずれも、ひらがな表記がスマートな代表的な例。
2.副詞(11語)
「予め」「更に」「既に」「全て」「是非」「沢山」「共(供/伴)に」「尚」「全く」「迄」「宜しく」
副詞はひらがな表記が多い。なお、「ともに」は「共」「供」「伴」と複数表記があるため、ひらがな表記が多い。ちなみに、なぜか「全て」「全く」は、漢字表記を見かけることが多い。
3.形式名詞(7語)
「事」「為」「度」「時」「所」「等」「物」
形式名詞とは、その文言自体の実質的な意味が薄くなった名詞。「書くこと」「書くため」の「こと」「ため」などがそれにあたり、これらはひらがな表記が多い。こちらも、なぜか「事」「為」は、漢字表記を見かけることが多い。
4.補助動詞(7語)/補助形容詞(1語)
「~行く」「致します」「~して頂く」「~して居る」「~来る」「~見る」「~して貰う」
「~して欲しい」
補助動詞とは、その文言本来の意味がなくなり補助的な意味をそえる動詞。「学んでいく」「学んでいる」「学んでくる」「学んでみる」の「いく」「いる」「くる」「みる」などがそれにたりあり、これらはひらがな表記が多い。
ただし、「学校へ行く」「学校に居る」「学校へ来る」「人を見る」のように単独使用する場合は漢字表記。
なお、「致します」「~頂く」「~貰う」に加え、品詞的には補助形容詞となる「~して欲しい」は、基本的にはひらがな表記が多い。
5.複合動詞(3語)
「~し続ける」「~し直す」「~回/周/廻す(る)」
複合動詞とは、複数の文言が連結して意味をなす動詞。「見つづける」「見なおす」「見まわす(る)」の「つづける」「なおす」「まわす(る)」など複合動詞の後半にくる漢字は、ひらがな表記が多い。
ただし、「練習を続ける」「誤植を直す」のように単独使用する場合は漢字表記。
なお、「まわす(る)」は「回」「周」「廻」と複数表記があるため、基本的にはひらがな表記が多い。
6.その他(5語)
「~と言う」
「何時」
「及び」
「~の通り」
「~な/の中」
「~という」(連体詞)、「いつ」(指示代名詞)、「および」(接続詞)、「~のとおり」(接尾語)、「~な/のなか」(ある状態の最中を指す場合)なども、ひらがな表記が多い。
「ひらく」というクセがスゴイ
シーンや媒体によって、あるいは市販の表記ハンドブックとは異なる例もあるかもですし、もちろん、決して漢字表記が間違いということではありません。ただ、厳選した50語は、実際にさまざな編集部で表記ガイドラインに策定・運用してきた表記なので、それなりに実用的で汎用性はあると思われます。
いずれにしても、品詞を中心に解説してみましたが、ぶっちゃけ、当方も品詞なんて気にしてねーし、というか小欄に際して調べなおしたぐらいなので、品詞などは気にせずに、とにかく、これらの50語を使うときは、
いつでもひらがな表記。いつでもひらく。
と、クセにしてしまうのがオススメです。
どうでしょう、50語ぐらいならクセにできそうじゃね? って気がしますし、クセにしてしまえば、かなりのシーンでストレスが軽減され、スマートなコピーライティングや文章が書けるようになるのではないでしょうか、たぶん。
ちなみに、ご覧のとおり小欄もこの「ひらがなで書く漢字50選」に準じて、統一すべきひらがな表記で書かれています。
「揺れる想い」ならぬ「揺れぬ表記」
(了)