~ 元編集者・現コピーライターが読んだ政党のキャッチコピー ~
No.020|B.コピーレビュー|B-006|
参議院選挙スタート
2022年7月10日に投開票される第26回参議院議員通常選挙(以下参院選)。選挙時は各党キャッチコピーをレビューするのが通例の小欄。突如、安倍晋三元首相が凶弾に倒れるという暴挙が発生したなかで行われる選挙に際して各党のキャッチコピーに触れ、言論の自由という重みを感じざるを得ません。
~ この度の訃報に接し心から哀悼の意を表すとともに、小欄を安倍晋三元総理大臣に捧げます ~
目次|INDEX
01)自由民主党
02)立憲民主党
03)公明党
04)日本共産党
05)日本維新の会
06)国民民主党
07)れいわ新選組
08)社民党
09)NHK党
1.漢字表記
2.かな表記
3.文中句読点
4.文末の句点
5.文末トーン
参院選2022
各党キャッチコピーが出そろう
6月22日(水)の公示を経て、各党の公約とともに出そろったキャッチコピー。以前の衆院選の際にも試みたように、元編集者でコピーライターならではの視点で、各党のキャッチコピーを考察します。
※お断り 本稿および小欄では、特定政党の支持や不支持といった扇動表明、各党マニフェストや政策への賛否是非、政治における主義主張、各党コピーの良し悪しを語るワケではないので、どーぞご安心ください。
各党のキャッチコピー一覧
政党名 | 2022年参院選のキャッチコピー |
01)自由民主党 | 決断と実行。暮らしを守る。 |
02)立憲民主党 | 変えよう。 |
03)公明党 | 日本を、前へ。 |
04)日本共産党 | 平和でも、くらしでも、希望がもてる日本に |
05)日本維新の会 | 改革、そして成長。 |
06)国民民主党 | 給料を上げる。国を守る。 |
07)れいわ新選組 | 「日本を守る」とは「あなた守る」ことから始まる。 |
08)社民党 | がんこに平和! くらしが一番! |
09)NHK党 | NHKをぶっ壊す! |
各党のキャッチコピー比較
(所感はあくまでイチコピーライターの感覚値です)
01)自由民主党のキャッチコピー
今回(22年参院選):決断と実行。暮らしを守る。
前回(21年衆院選):新しい時代をみなさんと ともに。
漢字表記 :暮らし
かな表記 :とくに言及なし
文中句読点:あり(~実行。)
文末の句点:あり(~守る。)
文末トーン:用言止め(~守る)
自由民主党のキャッチコピーの所感
・体言(実行)/用言(守る):語調を変えることで、凡庸感を避けリズム感を出すのが狙いかも。
・暮らし:かな表記も多い「くらし」を漢字表記にすることで、誠実さや実直さを出すのが狙いかも。
・句点(。):1文ごと&文末に句点を入れることで、2つの要素をより明確に打ち出すのが狙いかも。
02)立憲民主党のキャッチコピー
今回(22年参院選):生活安全保障
前回(21年衆院選):変えよう。
漢字表記 :とくに言及なし
かな表記 :なし
文中句読点:なし
文末の句点:なし
文末トーン:とくに言及なし
立憲民主党のキャッチコピーの所感
・単純語句:コピー体裁や文章を避け単純語句表現にすることで、力強さを打ち出すのが狙いかも。
・保障:保証(責任的)、補償(償い的)でなはく、保障(保護的)を訴求するのが狙いかも。
03)公明党のキャッチコピー
今回(22年参院選):日本を、前へ。
前回(21年衆院選):日本再生へ 新たな挑戦。
漢字表記 :とくに言及なし
かな表記 :とくに言及なし
文中句読点:あり(~を、)
文末の句点:あり(~前へ。)
文末トーン:助詞止め
公明党のキャッチコピーの所感
・読点(、):文中に読点を入れることで、読み手に一呼吸を与えより深い理解を促すのが狙いかも。
・句点(。):文末を句点で締めて余韻を演出することで、印象的な読後感を与えるのが狙いかも。
04)日本共産党のキャッチコピー
今回(22年参院選):平和でも、くらしでも、希望がもてる日本に
前回(21年衆院選):なにより、いのち。ぶれずに、つらぬく
漢字表記 :とくに言及なし
かな表記 :くらし/もてる
文中句読点:あり(~でも、/~でも、)
文末の句点:なし
文末トーン:助詞止め
日本共産党のキャッチコピーの所感
・でも:条件の「でも」を繰り返すことで、強いメッセージ性を打ち出していくのが狙いかも。
・かな表記:「くらし」「もてる」をかな表記にすることで、柔和な印象を与えるのが狙いかも。
05)日本維新の会のキャッチコピー
今回(22年参院選):改革、そして成長。
前回(21年衆院選):身を切る改革、実行中。
漢字表記 :とくに言及なし
かな表記 :とくに言及なし
文中句読点:あり(改革、)
文末の句点:あり(~成長。)
文末トーン:体言止め
日本維新の会のキャッチコピーの所感
・読点(、):文中に読点を入れることで、読み手に一呼吸を与えより深い理解を促すのが狙いかも。
・接続詞:文中に「そして」を入れてから結句させることで、より深い理解を促すのが狙いかも。
・句点(。):文末を句点で締めて余韻を演出することで、印象的な読後感を与えるのが狙いかも。
06)国民民主党キャッチコピー
今回(22年参院選):給料を上げる。国を守る。
前回(21年衆院選):動け、日本。
漢字表記 :とくに言及なし
かな表記 :とくに言及なし
文中句読点:あり(~上げる。)
文末の句点:あり(~守る。)
文末トーン:用言止め
国民民主党のキャッチコピーの所感
・用言止め:「~上げる」「守る」と用言止めを繰り返すことで、リズム感を出すのが狙いかも。
・句点(。):1文ごと&文末に句点を入れることで、2つの要素をより明確に打ち出すのが狙いかも。
07)れいわ新選組のキャッチコピー
今回(22年参院選):「日本を守る」とは「あなた守る」ことから始まる。
前回(21年衆院選):何があっても心配するな。
漢字表記 :守る/始まる
かな表記 :あなた/こと
文中句読点:なし
文末の句点:あり(~始まる)
文末トーン:用言止め
れいわ新選組のキャッチコピーの所感
・カギかっこ(「」):カギかっこでくくることで、当該要素を強調して理解を促すのが狙いかも。
・かな表記:「あなた」「こと」をかな表記にすることで、柔和な印象を与えるのが狙いかも。
08)社民党のキャッチコピー
今回(22年参院選):がんこに平和! くらしが一番!
前回(21年衆院選):生存のための政権交代
漢字表記 :一番
かな表記 :がんこ/くらし
文中句読点:なし(!=感嘆符)
文末の句点:なし(!=感嘆符)
文末トーン:体言止め
社民党のキャッチコピーの所感
・かな表記:「がんこ」「くらし」をかな表記にすることで、柔和な印象を与えるのが狙いかも。
・感嘆符(!):1文ごと&文末に感嘆符を入れることで、2つの要素を力強く打ち出すのが狙いかも。
※編集界では、感嘆符の直後に文が続く場合、半角(または全角)アキを入れるのが通例。
09)NHK党のキャッチコピー
今回(参院選):NHKをぶっ壊す!
前回(衆院選):NHKをぶっ壊す
漢字表記 :壊す
かな表記 :とくに言及なし
文中句読点:なし
文末の句点:なし(!=感嘆符)
文末トーン:用言止め+感嘆符(!)
NHK党のキャッチコピーの所感
・感嘆符(!):文末に感嘆符を入れることで、より力強く打ち出すのが狙いかも。
キャッチコピー解説
1.漢字表記
漢字表記ができるのであれば、まずは漢字が基本。狙いや効果としては、誠実、真摯、賢明、丁寧など。業界では、漢字表記にすることを「とじる」という。
2.かな表記
漢字表記もできるが、あえてかな表記にする場合がポイント。狙いや効果としては、見(読み)やすさ、平易さ、わかりやすさ、やさしさなど。業界では、かな表記にすることを「ひらく」という。
3.文中句読点
狙いや効果としては、①区切り/グルーピング、②見(読み)やすさ、③間(ま)/余韻、④リズムなど。①基本的、②デザインや視覚的、③読後感的、④聞き心地(音声)的と、それぞれの意図で採択。
4.文末の句点
用法的には、文の終わりに打つ以外に大意はなく、好みに近い。ただし「」()内、記号、箇条書き、スペックなどの「文末に打たない」というルールに準じるのが自然。あえて狙いや効果を挙げるならフォント、デザイン、リズムによる。
5.文末トーン
狙いや効果としては、表現、文脈、対象、媒体などのケースによる。表現形式(書式、文法、トンマナ)として、体言(名詞)止め、用言(動詞)止め、助詞止め、進行形、打消し、疑問、命令など。
【終わりに】選挙へ行こう
たった数文字の想い
たった数文字のキャッチコピーで、表記ルールから狙いまで、さまざまな視点で語れるポイントがたくさんあるということ、ちょっとでも知っていただける機会になったのなら、これ幸甚です。
キャッチコピーは極限まで短く
たくさんの想いを、たくさんの視点で、たくさん割愛し、それでもたくさん伝わるよう、極限まで短く書く。政党も、企業も、個人も、キャッチコピーへのアプローチは、みな同じなのかもしれません。
先人が勝ち取った選挙権
先人が勝ち取ってきた大切な権利である選挙権。「広告でも政府の放送でもなく~」と冒頭で語りかける著名人の自主制作プロジェクト「VOICE PROJECT 投票はあなたの声」という動画を(小欄発足時の趣意でも宣言したとおり、利己にあたる広告ではないので)、末筆ながら共有します。
よりよい社会のために、合掌。
<当ブログのリンク設置や引用について>
・当ブログ「コピーライティングのトリセツ」は基本的にリンクフリーです。
・リンクを設置される場合の許可や確認のお問い合わせは基本的に不要です。
・ただし、リンクを設置される場合、または引用など出典先とされる場合は、
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(了)