~ iPhoneのキャッチコピーから学ぶ広告の言葉とトンマナ ~
No.014|C.コトバ|C-003
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最近のキャッチーコピー事情
※ひとまず本稿におけるキャッチコピーとは、タイトル、リード(導入文や要旨)、見出しなどの簡潔なコピーを指すものとし、本文、説明文、注意書き、スペックといった文章は含めないものとします。
売れる! 稼げる! バズる! モテる!
そんなウリ文句とともにキャッチコピーが語られることは、決して少なくありません。個人商取引や小規模店ECサイト、情報商材の広告、アフィリエイトの誘因といった世界での激しい獲得競争。キャッチコピーの良し悪しが、コンバージョンや売上に大きく影響するでしょうから、まあ当然ではあります。
キャッチコピーをとりまく空気感
一方、当方が関わる企業コピーライティングの世界でも、当然ながらコンバージョンや売上への要望は発生します。加えて、訴求性、効果性、説得力、トレンド感、トーン、品位、世の中の空気感と、キャッチコピーにかぎらず、言葉の一つひとつに多面的な配慮も求められ、それはそれは厳しい世界です。
今どきのキャッチコピー事情
最近はコンプライアンスや多様性が一層意識され、企業案件のコピーでは、世の中の空気感にはとくに敏感にならざるを得ません。刺激的な表現は角が立たぬよう丸い表現にしながらも、数字はきちんと求める。まあ当然ですけど、ますます複雑な配慮を強いられるのが、今どきのキャッチコピー事情です。
企業案件のキャッチコピーの傾向
こうした事情も手伝ってか、企業案件のキャッチコピーには、毎度よく使われる(好まれる)言葉の傾向があるなあと、近年ずっと感じていまして。せっかくなので今どきの企業案件っぽい言葉というか一語を、カタカナ、ひらがな別にちょっと挙げてみました。何の参考になるのかは、アレなんですけど。
企業のキャッチコピーでよく使う言葉
キャッチコピーでよく使うカタカナ
シーン:利用時の背景、情景、心理の訴求に
スタイル:好み、趣向、考え方、主義の訴求に
スマート:効率性や合理性の訴求に
スムーズ:円滑性、利便性、簡便性の訴求に
ソリューション:改善、向上、解決など方策の訴求に
トータル:総合性、包括性、全体感の訴求に
プラス:増加、追加、添加、付加の訴求に
プレミアム:上質感、特別感、限定感の訴求に
ライフ:日常、生き方、将来性などの訴求に
ワンストップ:集約感、横断性、一本化の訴求に
※50音順
ほかのカタカナに換言できなくもない言葉(シーン=カット/スマート=クレバー、シャープ、スタイリッシュ)。ほかのカタカナでは換言が難しい言葉(スタイル/ライフ)。いずれにせよ、その領域を端的に訴求したい企業案件のキャッチコピーでよく使われる、使い勝手のいい言葉ばかりです。
キャッチコピーでよく使うひらがな
あなた:自分事感の訴求に
おまかせ:効率性や合理性の訴求に
かんたん:利便性や簡便性の訴求に
さまざま:多彩さ、多用さ、多様さの訴求に
ずっと:永続的、継続的、長期的の訴求に
すべて:総合性、包括性、全体感の訴求に
たくさん:充実感、潤沢感、豊富感の訴求に
とっておき:上質感、特別感、限定感の訴求に
どんな:無条件感、無制限感、無限感の訴求に
もっと:増加、追加、添加、付加の訴求に
※50音順
ひらがなで表記することが一般的な言葉(あなた/ずっと/たくさん/とっておき/どんな/もっと)。カタカナで表記することも多い言葉(カンタン)。漢字で表記することもある言葉(お任せ/簡単/様々)。こちら三者とも、企業案件のキャッチコピーではよく使われる言葉ばかりです。
刺激的なキャッチコピーはもういらない?
好まれるのは耳ざわりのいい言葉
先に挙げた言葉は、当方が携わった案件にかぎりますが、企業案件のキャッチコピーでは好まれ、実際に採用された言葉ばかり。刺激的な言葉は避けられ、耳ざわりのいい、やさしく、丁寧な言葉がますます好まれる昨今、もしもこれらの言葉を使うなといわれたら、うーん、想像するだけでゾッとします。
iPhoneのキャッチコピーは刺激的なのか?
とはいえ、安心や誠実さが求められる案件だから、そりゃあ耳ざわりのいい言葉が多いのかも知れず。「んじゃ、勢いのある商品のキャッチコピーなら刺激的な言葉も多いんじゃね?」。確かに。では勢いの代表格のような「iPhone13 Pro」とかなら、キャッチコピーの考察としていい事例かもしれません。
※キャッチコピー考察にあたり(引用の定義)
主従関係が明確であること(明確性)
引用部分が他とはっきりと区別されていること(明瞭区別性)
引用をする必要性があること(必要性)
出典元が明記されていること(出典)
改変しないこと
本稿における引用はすべて、上記1.~5.の条件を満たした上で当該公式サイトから引用されています。
『3「引用」のルール・条件とは』より/トップコート国際法律事務所(良記事につきぜひに参照を)
iPhone13 Proのキャッチコピー
iPhoneのキャッチコピーをスタディ
iPhone13 Proのキャッチコピーとすると、公式サイトのドトップ(いわゆる最上部)にある赤線で印した「すべてがプロ。」がイメージされるかもですが、これだけだとちょっと何も語れないので、以降本稿では、その対象を本文部といった言葉=テキスト一式にまで広げて、定義は以下のとおりとします。
※対象はタイトル、リード(導入文や要旨)、見出し、本文などの言葉=テキスト類
※文字カウントは、当該商品公式トップページ(商品概要)におけるブラウザ上の単純文字検索
※なお、固有名詞、文脈的に異なる場合、スペック、注釈、ヘッダフッタの文字はカウントしない
以上の前提で、前述した(当方が近年携わった案件における)「キャッチコピーでよく使うカタカナ、ひらがな」を中心に、iPhone13 Proのキャッチコピー(類のテキスト)をスタディしてみましょう。
iPhone13 Proで使われるカタカナ
※1「スマートフォン」や固有の機能名称などを除く
※2「プラスチック」は除く
この中では多勢の「シーン」「スタイル」は、他の企業案件でもかなりの頻度で使われる言葉。一方、同じく高頻度で使われる「プラス」「ライフ」は1回も使用されておらず、かなり意外。ちなみに、使用頻度が低かった「ソリューション」「ワンストップ」は、商品系よりはサービス系の案件向きかも。
上記以外で使われていた、iPhone13 Proのキャッチコピーのおもなカタカナ。
※カメラ性能関連のためあくまで参考
その特長である高性能カメラならではの「フォーカス」「ディテール」などを除けば、キャッチコピー的には、「レベル」「アップ」「スピード」といった向上性を訴求する言葉が並ぶ。一方、「パワフル」「クリエイティブ」「リード」といった、iPhoneらしい力強さや創造的な言葉は意外に少なめ。
iPhone13 Proで使われるひらがな/漢字
あなた:22回
おまかせ:0回
かんたん:4回(簡単)
さまざま:5回(様々)
ずっと:1回
すべて:17回
たくさん:3回
とっておき:0回
どんな:4回
もっと:4回
ひらがなでは「あなた」が使用頻度1位
企業、商品、サービス問わず多用される「あなた」がiPhone13 Proでも使用頻度が特出して高い。一方、その意味的に断りや注釈(いわゆるガード文言)が必要とされ、企業案件ではリスクヘッジとして敬遠されがちな「すべて」も、自信の表れか多数使用。iPhoneの特性を表す「簡単」「様々」も散見。
上記以外で使われていた、iPhone13 Proのキャッチコピーのおもなひらがな/漢字。
最:28回(最速/最高/最大/最小/最短/最適/最も など)
新:19回(新しい/新次元/一新/新登場 など)
できる:16回
より~:14回
一段と:11回
変:11回(一変/変える/変更/変化 など)
世界:5回
さらに:4回(「さらに詳しく」は除く)
もっと:4回
発揮:4回
まったく:3回
いつでも:3回
驚異的:3回
魅力:3回
進化:2回
賢い:2回
あらゆる:1回
極めて:1回
かつてない:1回
好み:1回
飛躍的:1回
もたらす:1回
キャッチコピー的には、最上位、革新性、向上性を訴求する「最」「新」「より~」「一段と」「変」を使った言葉が多数出現。「さらに」「もっと」「発揮」「驚異的」「進化」「飛躍的」と、いずれも高機能性を訴求する言葉も並ぶ。「あらゆる」「もたらす」はキャッチコピーではお馴染みの言葉。
エモーショナルとファンクショナル
iPhoneらしいキャッチコピーとは
ここまでは一語というか、言葉単体というか、つまりは単語に注目してきましたが、あらためて一文というか、一句というか、ワンフレーズというか、つまりは単語ではなく、いわゆるiPhoneらしいと感じさせるキャッチコピーのいくつかを、以下に列挙してみます。
01)おおお!
02)傑作は、夜に生まれる。
03)フォーカスが切り替わる。ドラマが生まれる。
04)1枚のショットに隠れた、無数のテクノロジー。
05)ゲームが加速する。
06)A15 Bionicは、何年ものコラボレーションの成果です。
07)もっと一緒に。もっと夢中に。
08)iPhoneに楽しさを詰め込んで。
09)一緒なら、もっと活躍。
10)一緒に使おう。
どうですかね、どことなくiPhoneというか、Appleらしさを感じさせます。でもそれってどこから、具体的にはどういった表現、すなわちトーンがそう感じさせるのでしょう。文法というほどではないですが、コピーライティングではよく意識される、いわゆるトンマナ(※1)的な視点で分類してみます。
※1 トンマナ【tone and manner】[名]
トンマナとは、トーン&マナー(tone and manner)の略。トーンとは、調子や色調などキャラ設定的なイメージに近く内向き(関係者、送り手)、一方マナーとは、作法や様式など品位的なイメージに近く外向き(利用者、受け手)で、それぞれの視点に立ったルール、ガイドライン、指針、方向性のこと。コピーライティングをはじめブランディング、デザイン、制作物、媒体などで基準とされる目安。
iPhoneのキャッチコピーの分類
01):感嘆調
02)03)05):言い切り(あるいはだである調)
04)09):体言止め
06):ですます調
07)08):助詞(格助詞)止め
10):提案、提唱、勧誘
というように、実は文法的にはバラけているというか、トンマナとしてはちょっと不統一なんです、意外なことに。では、なぜいずれのキャッチコピーからはiPhoneらしさ、Appleらしさが一貫して感じられるのか。なぜなら、これらのすべてが「情感」に訴えるトンマナで書かれているからと思われます。
一方、冒頭から触れてきた単語の使用箇所は、一部文脈によって例外もあり、説明的なリード文からも抽出しているとはいえ、そのほとんどが「機能」に訴えるトンマナで書かれています。トンマナ的には不統一と先述しましたが、そういう意味ではトンマナは統一されているようで、安心しました(謎)。
情感=エモーショナル。機能=ファンクショナル。おそらく両者のバランスを考えたトンマナでキャッチコピーを配置することで、iPhoneらしい印象となって読み手に伝わってくるものと推察されます。さらに情感=エモーショナルには、ドラマ性というかストーリー性のある表現もちりばめられています。
エモーショナル×ファンクショナル×ストーリー
「iPhoneみたいなトーン」というと一見曖昧そうですが、その背景にはトンマナという明瞭なルールによって緻密に考えられていることが、iPhone13 Pro公式サイトの言葉から伺い知ることができます、だなんてまあ、実は基本的な視点ではあるんですけど、基本こそ小欄が重んじる視点なのであります。
エモーショナル。ファンクショナル。ときどきストーリー。
冒頭でも挙げたとおり、今どきの企業案件の現場で感じられる「キャッチコピーでよく使う言葉」を意識してみる一方で、iPhoneの例にもあるような、エモーショナル、ファンクショナル、あるいはストーリー的な視点も意識しながらキャッチコピーに触れてみると、何か気づきを得られるかもです。
企業や商品の広告、CM、サイト、あるいはアプリなどを目にするとき、ましてやご自身でキャッチコピーをお書きになる立場であるなら、今まで生まれなかった良質なコピーを生み出せるかもしれません。
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(了)