~ 新年の新聞広告から見えてくる広告コピーのトレンド ~
No.009|B.コピーレビュー|B-003
新年の広告コピーも「ネクストノーマル」
2021年1月1日。例年であれば、明るく華やかなトーンの広告コピーが並ぶ年始の新聞紙上ですが、2021年の新年は、やはりというべきか、コロナ禍が意識された広告コピーが目立ちました。
1都3県ながら、年明け早々の1月7日には緊急事態宣言(期間は同月8日から翌月7日まで)が発令されるなど、新型コロナウイルス感染症の収束が見えない状況下では、新しい生活スタイルや働き方、いわゆるニューノーマル、ネクストノーマルが意識された広告コピーが増えるのは、当然のことでしょう。
一年の意気込みが表れる新年の広告コピー
その年における企業や団体の意気込みが、とくに表れやすいのが、新年の広告コピーです。2021年元日に掲載された新聞広告でも、やはりその傾向が数多く見受けられました。
これまでとは明らかに状況が変わってしまった2021年の新年。企業・団体は、どんな意気込みを発信したのでしょう。(新型コロナウイルス感染症の猛威が、これほどまでに想定されていなかった)昨年の新年と同様、2021年の新年も恒例的に、印象に残った広告コピーのレビューを試みていきます。
※解説は過去に関わった編集・案件などを参考とする当方想像であり、断定するものではありません。
※アミカケ枠内の斜体は引用箇所。順不同。敬称略。
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊14-15面(見開き両面広告)
日本自動車工業会の広告コピーレビュー
日本を中心に、大きな躍動が生まれるはずだった2020年。
と、ボディコピーの冒頭では、2020年東京オリンピック・パラリンピックの延期を思わせながら、
「動く」ということが私たち人間の根源的な願望であること。
と、人間の根源的な願望を力強く訴え、
日本の自動車業界には、550万人の人たちが働いている。
と、数字を提示して、携わる人々の圧倒的な数の多さを印象づけ、
みんなこの国の「移動」を支える大きなチームだ。この550万人の思いがひとつになったら、どれほどの力になるだろう。
と、読み手に共感をもたらす、ポジティブな想像を挙げて、
新しい日常とは立ち止まることじゃない。新しいやりかたで、新しい道を進んでいくことだ。
と、すでに認知されている「新しい日常」を過ごしていくにあたり、立ち止まらずに前向きに進んでいくことを、力強く明言しています。
日本自動車工業会のメッセージは「私たちは、動く。」
見開きに渡って掲げられた「私たちは、動く。」というメインコピーは、語り手となる日本自動車工業会のみならず、「人間の根源的な願望」というボディコピーを読み進めることで、自然と伏線が回収され、「私たちは、動く。」は、そのまま読み手が自分事として受け取れるような構成になっています。
コピーライティング的には、強い決意を感じさせる「だである調」に、「~ではない」ではなく「~じゃない」という口語調を入れることで、力強さとフランクさの両面を感じさせる点に好感が持てます。
加えて、具体的な数字(550万人)はインパクトを与えるだけでなく、「どれほどの力になるんだろう」と、読み手が想像しやすくなる効果も生んでいます。ただ、コピーライターという職業柄か、550万人という数字を確定させる調整とかも苦労されたんだろうなあと、余計な心配をしてしまいました。
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊16面(全面広告)
大和ハウス工業の広告コピーレビュー
喜び、怒り、哀しみ、楽しむ。
ごくあたりまえのことがどこれほど貴重なことか。
と、ボディコピーの冒頭は、4つの感情とその貴重さを、独白調で語りはじめ、
働き方や暮らし方の新しいかたち。
ほうんとうにたいせつなものを、たいせつにする生活へ。
と、(引用した上記の2行目では)すべてをひらがな表記にする(いわゆる「ひらく」)ことで、唯一漢字表記(いわゆる「とじる」)となった「生活」を、視覚的に浮き上がらせながら、
新しい毎日へ一歩踏み出すあなたと、
新しいよろこびや自由を共に育てるために。
と、両文頭ともに書き出しを統一して、「新しい」を強調させるとともに、
あなたと、あなたと、あなたと。いっしょに。
共に創る。共に生きる。大和ハウスグループ
と、メインコピーと同様に3回繰り返した「あなた」を印象づけた後で、「共に創る。共に生きる。~」というグループメッセージで、ボディコピーを結びながら、
Grow a new life
新しい生活を育てよう
というキャッチコピーを添えて、全体を締めくくっています。
大和ハウス工業のメッセージは「いっしょに新しい生活を育てる」
ボディーコピーで結んだ「共に創る。共に生きる。」というグループメッセージが、「新しい生活を育てよう」というキャッチコピーと共鳴することで、「私たちはあなたといっしょに新しい生活を育てる」と受け取れるような構成になっています。
コピーライティング的には、冒頭のメインコピー、ボディコピーの文末ともに「あなたと~いっしょに。」という表現をはじめ、「ほうんとうにたいせつな~」「いっしょに」など、とくに伝えたい部分をすべてひらくことで、ひらがなが持つ柔和さだけでなく、かえって目に留まる効果も生んでいます。
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊17面
箱根駅伝の広告コピーレビュー
応援したいから、
応援にいかない。
観戦や応援目的での外出はお控えください。
スポーツなど各種イベントで無観客・大幅縮小を強いられるなか、「箱根駅伝」の主催側として発信されたコピー。「~したいから」「~いかない」という逆接表現は、一瞬「?」と目が留められながら、続く「観戦や~お控えください」というコピーを目にすることで、合点がいく構成になっています。
関東学生陸上競技連盟のメッセージは「外出は控える」
「箱根駅伝」を観戦してもらう広告でありながら、やはり主催側としては「外出はお控えください」というお願いが、最も訴えたいメッセージというか、注意喚起なのかもしれません。
コピーライティング的には、下段に並ぶ協賛企業の上部に記された、
私たちは、番組を通じて「第97回箱根駅伝」を応援しています。
という一文は、協賛企業各社も「外出を控える」ことを、一緒になって訴えているような印象を与える構成に、好感が持てます。
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊19面(全面広告)
SEIKOの広告コピーレビュー
たくさんのことが、
私たちを隔てようとしている世の中で、
と、ボディーコピーの冒頭では、コロナ禍によって強いられた現状を訴え、
もしかしたら時間だけが、
誰にでも平等なものかもしれないと思う。
遠く離れたあなたとあなたを
つなげられるものかもしれないと思う。
と、「時間」に深く関わる当社らしく、普遍的な想像を吐露した上で、
だとしたら、そのすべての時間が、
やさしい時間であったなら。
その一分は誰かを傷つける一分ではなく、
誰かと笑い合う一分であってほしい。
その一秒は自分を責める一秒ではなく、
自分をいたわる一秒であってほしい。
と、笑いやいたわりのある「時間」であってほしいと願いながら、
そのやさしい一分一秒が積み重なることで、
この世界はやさしさを少しずつ獲得できるのではないだろうか。
と、やさしさを失いかけた今の世界に希望をもたらす考え方を示し、
なぜなら時間とは、
あなたそのものなのだから。
と、「これまで生きてきた時間こそが自分なのだ」と、ハッとさせるようなメッセージで読み手にエールを送った上で、
やさしい時間
と、メインコピーで結んでいます。
SEIKOのメッセージは「やさしい時間」
「時間」というキーワードで、読み手の心をグッとつかむメッセージに仕上げられています。「生きてきた時間は自分そのもの」と読み手を肯定するだけでなく、そんな自分そのものである時間は、「やさしい時間」なのだと、読み手が自分事として受け取れるような構成になっています。
コピーライティング的には、「~かもしれないと思う」「~ではなく、~であってほしい」のように、ボディコピー内の詩のような統一感やリズム感。広告としては少し長めな文章でも、統一感やリズム感に配慮することで、自然と最後まで読み進められるコピーライティングの好例といえるでしょう。
➎大林組
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊28面(全面広告)
大林組の広告コピーレビュー
人類の歴史は、つくることの歴史だ。
制約、常識、願望。
人は、つくることによって、
さまざまなことを乗り越えてきた。
と、ボディコピーの冒頭では、人がつくってきた歴史を振り返り、
時代が大きく変わろうとしている今。
私たちは、つくることそのものをつくり変えてゆこうと思う。
(略)
常に問いかけながら、可能性を拓き続けようと思う。
と、コロナ禍の状況下を思わせながら、「変えてゆく」「拓き続ける」と表明し、
世界は不確かで、複雑さを増している。
と、現状の課題を挙げた上で、
これまで培ってきた力が、
まだ見たことのないものを実現する原動力になるはずだ。
なぜならいつだって、つくることは、何かを超えることなのだから。
建設の枠を超え、新しい領域を拓いてゆく。
と、当社が培ってきた実績を重ね合わせながら、さらにそれを超えていくことを宣言しています。
大林組のメッセージは「つくり変えろ。」
ボディコピー(本文)に添えられた、タイトルコピー(見出し)となる「つくる」「つくり変えろ」は、先の「箱根駅伝」でも触れた逆接表現ですが、この場合は目を留めさせるというよりも、最下段にあるメインコピー「MAKE BEYOND」と呼応するような構成になっていて、「これまでつくってきた実績を、乗り越えるんだ」というようなメッセージとして、読み手に伝わってきます。
コピーライティング的には、建設系企業としては「作る」「創る」「造る」いずれの表記でもいいところ、「つくる」とひらがな表記にしながら、一見これまでのすべてを否定しかねない「つくり変えろ」という表現をあえて使っているところに、その決意の強さを感じさせます。
➏キヤノン
※出典:21年1月1日(金)/読売新聞/朝刊38面(全面広告)
キヤノンの広告コピーレビュー
キヤノンといえば、カメラ。
世の中のそのイメージは、
私たちにとってかけがえのない財産です。
と、ボディコピーの冒頭では、だれもが抱く当社のイメージを自負し、
セキュリティー、商業印刷、医療、産業機器など
社会を支える幅広い領域へと
応用されています。
と、そのイメージからさらに広がる領域を、4つの事例を挙げながら伝え、
多様化する社会課題を解決し、
人びとの生活を豊かにするためには、
キヤノンのイメージング技術が欠かせない。
と、先の4つの事例と、カメラのイメージを自負する当社の技術力を、リンクさせながら、
今まで見えなかった
モノやコトを“みえる化”していく。
キヤノンの新化が
次の未来を切り拓きます。
と、「進化」ではなく、言語的には存在しない「新化」という文言を用いながら、未来を切り拓くことを宣言しています。
キヤノンのメッセージは「新化」
キヤノンといえば「make it possible with canon」というおなじみのフレーズですが、ここでは「新化」という文言を採用し、「可能にするだけでなく、新しく化けていく」という、さらに上を目指していくようなメッセージ性が感じられ、2021年に向けた当社の可能性に期待感を抱かせています。
コピーライティング的、というよりも構成的には、カメラのイメージが持つ「みる」をコンセプトにした構成。日常の「見る」、観戦・鑑賞の「観る」、監視・解析の「視る」、診断・看護の「診る」と、イメージング技術を扱う当社における領域の広さを、スマートにわかりやすく表現しています。
2021年新年の広告コピーに使われたキーワード群
➊ 私たちは、動く。(日本自動車工業会)
➋ いっしょに新しい生活を育てる(大和ハウス工業)
➌ 外出は控える(箱根駅伝)
➍ やさしい時間(SEIKO)
➎ つくり変えろ。(大林組)
➏ 新化(キヤノン)
こうして並べると、注意喚起に近い➌箱根駅伝を除き、前向きさや力強さを感じさせるコピー群(➊日本自動車工業会、➎大林組、➏キヤノン)に対し、寄り添いやつながりを感じさせるコピー群(➋大和ハウス工業、➍SEIKO)とに、大別することができます(出典が少なくて恐縮なのですけど)。
以前に小欄で取り上げた「コロナ禍に出稿された広告のレビュー」では、「変化」「進む」「新しい」「挑戦」など、前者に類するような前向きなコピーが並びましたが、2021年の新年では、後者のような寄り添いやつながりを感じさせる、これまでのトーンから変化したコピーも印象に残りました。
さらに発展した世の中になることを信じて
いずれにしても、当然ですが無暗に恐怖感や危機感を煽らずに、前向きだったり、寄り添いだったりといった姿勢を打ち出すコピーに触れることで、新年からポジティブでやさしいキモチになれた読み手は、当方だけではないでしょう。
2021年。新しいくらし方や働き方を柔軟に受け入れながら、自粛や制限が次第に緩和・解消されて、苦しんでいらっしゃる方々が少しでも早く救われるだけでなく、これまで以上に発展した世の中となって、以前のようにたくさんの人々が触れ合い、笑い合える日々が戻ることを、切に願うばかりです。
(了)