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執筆者の写真コピーライター|中村 和夫

コピーライティングで最も大切なテクニックとは

~ プロのコピーライターが書くときに行う最後の仕上げ ~


No.003|C.コトバ|C-001

執着, コピーライティングで最も大切なテクニックとは, プロのコピーライターが書くときに行う最後の仕上げ, コピーライティング
 

目次|INDEX



 

コピーライターに寄せられるよくある質問

コピーライティング界の末端というか、端っこの方で地味に活動している当方ですが、ありがたいことにコピーについてのセミナーやコミュニケーションについての授業などのお声がけをいただくこともあって、僭越ながらときどき登壇や教壇の機会をいただきます。


そんなとき、聴講された方々や学生さんから、必ずといっていいほどに、いただく質問があります。


(A)「コピーを書くときは何に一番気をつけていますか」

(B)「どうしたらいいコピーが書けるようになりますか」

(C)「コピーライティングに必要なスキルって何ですか」


いずれも同じような内容ながら、だいたいお答えすることは決まっているのですが、その回答は、もったいぶるようで恐縮ですが、もう少し後段で触れるとして、まずはちょっと質問です。


上記の(A)~(C)の書き方について、何か気がつかれたことはあったでしょうか。


・質問形式なので疑問文

・会話文なのでカギカッコ表記

・各文頭にアルファベットの付番


などなど云々。


上記のようなことが挙げられたのかもしれません。なるほど。確かにいずれも合致しています。


これまでに当ブログを高覧いただいた方なら、たとえば「2020年元日に掲載された広告コピーのレビューの稿で触れた「代表的なひらがな表記」を思い出し、


・「とき」「いい」「よう(に)」などがひらがな表記


さらには、脱線的に↑上記の指摘を指して、


・「とき」「いい」「よう(に)」のようにカギカッコが続く場合は、カギカッコの間に読点(、)は打たない


という指摘まで出てくると、当方としてこれほど喜ばしいことはありませんが、今回気づいていただきたいのは、残念ながらそこではないんです。勝手を申してすみません。


※「コトバ」カテゴリでは、コトバや表記などコピーライティングの豆知識的な注釈が、本稿中ところどころに挿入されます。どーぞご参考ください。


 

コピーライティングで意識したい「統一」

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ということで、上記の(A)~(C)で、当方的に気づいてほしいことを明かします。それは、


「文字数が同じ」


ということです。


「なんだ、そんなことかよ」


そう感じられた方、早計なのでもう少しお付き合いください。


「統一する」「そろえる」「あわせる」(※1)は、当方がコピーライティングや書くときに意識しているポイントのひとつです。


(※1)「揃える」はやや難読、「合わせる、会わせる、併せる」は複数表記の理由で、それぞれひらがな表記が多い。

ちなみに、上記(A)~(C)は、文末が「~ま(〜で)すか」と、疑問符をつけない疑問形(※2)で統一されている一方で、「コピー」と「コピーライティング」は統一されていません。


(※2)問いかけの「~か」を使うことで、疑問符をつけなくても疑問文は書けるため、およびチープな印象もあるため、トンマナ的に疑問符「?」は使わない場合も多い。

本来はこれも統一したかったのですが、それ以上に統一を優先させたのが「文字数」でした。そのために「コピー」「コピーライティング」の統一は次点としたのです。


その意図は明白で、上記(A)~(C)を今一度ご覧になるまでもなく「見た目」です。どうでしょう。美しいではありませんか。


人間は2つ以上の項目を目にすると少しづつ混乱しはじめます。


上記のように3つになってくると、たとえば文頭にナカグロ(・)を付したり、箇条書きにしたりと工夫しますが、それはできるかぎり読み手の混乱を避けるための親切心からです。


(A)~(C)のように付番し(ちなみにナカグロにしなかったのは、このように後段で指摘しやすくするため)、文字数をピタリとそろえたのは、3つの項目を読みやすく、というよりも「見やすく」するための工夫だったのです。


商業用コピーライティングの世界では概して、元々の伝えたい情報量が多いだけでなく、それをわざわざ読んでもらい(※3)、さらには書き手が求める行動を読み手に促すという、書き手側のかなり自分勝手的な(失敬)要望を課せられることが多い世界です。

(※3)「貰う」は難読の理由からひらがな表記が多い。

だからこそ、できるかぎり、シンプルに、わかりやすく伝えるために、美しい見た目につながる「文字数をそろえる」ことを、当方はいつも重要視しています。


 

コピーライティングで本当に大切なこととは

「なるほど。文字数をそろえることが、コピーライティングでは大切なことなのね」


そう感じられた方、しつこくて恐縮ですが、まだ早計なのでもう少しお付き合いください。


確かに文字数をそろえることは大切ですが、それよりも文字数をそろえることから逃げない、文字数をそろえることをはじめとする、あらゆる些細なことに固執する、つまりは、


「なんてことのない細部にこそこだわる」


ということを訴えるための、ここまでの伏線でした。まわりくどくてすみません。お待たせしました、「細部にこだわる」ことが、すなわち冒頭(A)〜(C)における答えだったのです。


文字数をそろえる。同様に、統一する。そろえる。あわせる。これらはすべて「細部へのこだわり」の配下に位置づけられる、ほんの一例に過ぎません。


なぜなら、当方がコピーを書くときに大切にしていることは、ほかにもいくつかあって、今後小欄で取り上げていく所存ですが、結局のところすべては「細部にこだわる」に言い含めることができる、と考えているからです。


 

「紹介します禁止令」の通達

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前置きがだいぶ長くなりました。当カテゴリである「コトバ」について、ようやく本題に入ります。重ねて恐縮です。


「紹介します」というコトバにこだわってみる、というのが今回の本題です。


それは以前。毎月のように企画を提案する、とある案件に携わっていたときのこと。


「次回は、こんな地方の、こんな個性を紹介します」

「次回は、こんな国々の、こんな文化を紹介します」

「次回は、こんな領域の、こんな風習を紹介します」


はい。文字数や各所表記がそろっていますが、そこがポイントではありません。でも、どうでしょう、見た目が美しいですね。


話を戻し、その案件の定例では、クライアント説明を担当するディレクター氏に対し、当方がリサーチした素案をドキュメントにまとめあげて提出していました。


そこで上記のような提案文を、深く考えることもなく毎回書き続ける当方に対し、担当ディレクター氏はたしなめたのです。


「毎回同じで浅薄な印象だから、『紹介します』って文言は、もう使わないでね」(※4


(※4)会話文の「」の中の強調時は『』でくくるのが通例。

まだクライアントに提案する事前のドキュメント、しかもコピーやライティングのドラフト(※5)ですらないにもかかわらず、つまりは本番のコピーライティングや原稿ではなく、あくまで提案用の資料に書かれているイチ表現に対し、担当ディレクター氏は、そう指摘してくれたのです。


(※5)下書きや原稿の粗起こしのこと。元来は草案の意。業界的には筋書や構成を指す「プロット」とは区別して使うことが多い。「和夫ちゃん、サクッとドラフト起こしてくれる?」のように使う。

「紹介します禁止令」が出された当方は、以降あらゆる表現を駆使して「紹介します」という表現の回避を強いられ、それはそれは鍛えられました。本番のコピーライティングではなく、提案資料の表現で。


提案資料とはいえ、立派なコピーライティング。顧みれば、とても勉強になった担当ディレクター氏のありがたい指摘であって、こうして小欄で取り上げるほどに、小さくない影響を与えられた体験となったのです。


 

「紹介します」というコトバにこだわってみる

そこで、お題です。


次号の『月刊コピーライティング』では「記憶に残るコピー10選」を紹介します

上記の例題について、「紹介します」を使わないで、意味を変えずに書き換えてみてください。


これは、当方がときどき受け持つ美術大学の授業のワークショップで取り上げたお題でもあって、美大の学生さんたちにも、いくつか書き換え案を挙げていただきましたが、なかなか窮されていました。


さて、いかがでしょう。「紹介します」を使わないで、「紹介します」を表現できるでしょうか。


まずは、先の学生さんたちが書き換えた例を紹介してみましょう、おっと「紹介」してみましょうではなくて、「挙げて」みましょう。


次号の『月刊コピーライティング』では「記憶に残るコピー10選」を取り上げます

はい。最もオーソドックスな「紹介します」の言い換え表現ですね。いいですね。


次号の『月刊コピーライティング』では「記憶に残るコピー10選」に迫ります

お。迫力が出ましたね。「迫る」に換言したことで、元原の「を」が「に」に換わりました。次号に期待感を抱かせる表現になりました。いいカンジです。


次号の『月刊コピーライティング』では「記憶に残るコピー10選」をフィーチャーします。

和文表現に尽きたときは、カナ表現を使うのはよくある手法です。かくいう当方も和製英語などのカナ表現は、よく頼りにしています。ちなみに「フューチャー」(未来)との混同やタイプミスには気をつけましょう。当方も一度やらかしています。


と、ここまで例を挙げましたが、上記以外の表現は、なかなか見つけられないのではないでしょうか。


いずれにせよ、さらっと書けてしまう「紹介する」というありきたりな表現より、上記の例の方が印象はよくなったといえます。


「紹介します禁止令」が出された当時の当方も、なかなか苦労したものです。ここまで読み進めていただき、代案は浮かんだでしょうか。


それでは、かくいう当方ももったいぶらず、「紹介します」を違う表現で言い換えてみます。



次号『月刊コピーライティング』が今こそレコメンしたい「記憶に残るコピー10選」

次号『月刊コピーライティング』が自信を持ってお届けする「記憶に残るコピー10選」

「記憶に残るコピー10選」を知らずして次号『月刊コピーライティング』は語れない。

「記憶に残るコピー10選」から考察する次号『月刊コピーライティング』の現在地。

と、思わせぶりな、センタリングのナカグロ(・)改行なんか入れたりして、ちょっと出し惜しみしてしまい恐縮です。


さて、上記の例を目にし、


「なんだよ。文体構造とか『紹介します』以外も書き換えていて、なんだかズルイぞ」


という声も聞こえなくもないですが、


次号『月刊コピーライティング』では「記憶に残るコピー10選」が紹介される

という、次号予告の意味(意図)は変えずに、あわせて「紹介します」という表現は使わずに、いずれも成立させています。


少し厳しいようですが、指示されたとおりに「紹介します」をほかの文言に言い換える「だけ」なら、それは単なる「作業」。


出された指示や要望から、その意図や本質を読み取って、次回やその先を期待させる、「紹介します」を超える表現にこだわるのが、本来あるべき「仕事」。


そんな考え方を、多くの先人編集者や著名な大作家の玉稿から、当方は教えられてきました。


コトバに対するこのような姿勢をいつか共有できたら。この度、晴れて小欄で取り上げることができました。


手前味噌にはなりますが、先に挙げた4つの言い換え案は、なんてことのない、ありきたりな「紹介します」という表現よりも、ずっと期待感を抱かせるはずです。


 

なんてことのないコトバたちを磨く

同じように、


・(~という)こと

・(~の)とき

・(~という)思い


といった、なんてことのない、ありきたりな、これらのコトバたちがあったとして、


・(~という)こと:(~という)価値/現状/事象/実情/ファクト

・(~の)とき:(~の)刹那/瞬間/一瞬/端緒/モメント

・(~という)思い:(~という)想い/思慕/祈り/決意/エモーション


と、ちょっと立ち止まって、先方からの要望、文脈、コンテキストに応じて、細部にこだわってみれば、表現の幅はぐっと広がることでしょう。


それこそが、「細部にこだわる」ことの大きな目的なのです。


誤解してほしくないのは、「紹介します」「こと」「とき」「思い」が決してダメなのではなく、もっといい表現に磨けないかと、「なんてことのないコトバにこだわる」という姿勢こそが、大切なのです。


はい。そうですね、「こだわり」という表現さえも、こだわっていいのかもしれません。


ちなみに、上記の言い換え案3例はともに(※6)、「5つの案」「4つの2字文言」「1つのカナ文言」という点で、それぞれ統一しています(文字数の統一を次点にしたのは、それぞれの案の数がバラバラになってしまうことの方が混乱するため)。(※7


(※6)「共、供、伴」など複数表記から「ともに」はひらがな表記が多い。
(※7)文末のパーレン()の直前や()内文末に句読点(、。)は打たず、「文末()。」とするのが通例。
×~しています(文字数の統一を次点にしたのは、それぞれの案の数がバラバラになってしまうことの方が混乱するため)
×~しています(文字数の統一を次点にしたのは、それぞれの案の数がバラバラになってしまうことの方が混乱するため)。

 

コトバの神は細部に宿る

コトバの神は細部に宿る, コピーライティングのテクニックとは, コピーライティング, 書き方, メソッド, ハック

文字数を統一する。表記をそろえる。表現をあわせる。なんてことのない文言を言い換えてみる。


これらのようなコトバへの気配り、心づかい、すなわち「こだわり」は、書き手であるコピーライターの先にいる、受け手や読み手に対して、よりよいコピーライティングを届けるためには不可欠なプロセスだと、当方は考えています。


元日本代表監督の岡田武史氏や、解剖学者の養老孟子氏が同様のことを言われていましたが、コトバの世界にも、通底するのではないでしょうか。


コトバの神は細部に宿る。


当方は、そう信じています。


ダメ出し。赤入れ。修正。それはもう数えきれないほどの失態と、ほんのわずかなお褒めの言葉から辿り着いた、当方が最も大切にしている、コピーライティングの仕上げに向き合うときの信念です。


お待たせしました。末筆に記すこの信念が、小欄のオチとなります。


「なんてことのない、ありきたりなコトバにこそ、徹底的にこだわる」


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(了)

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